個人的昨年度ナンバーワン抜きゲー 『ヒメゴト・マスカレイド』について

抜きゲーには、エロには二種類ある。「どうしてエロかったか」という理由をなんとか客観的に語れない場合と、語れる場合だ。
客観的に語れないというのは、こういうシチュが自分の趣味だとか絵が好みだといった、自分の趣味嗜好性癖がエロさの一番の理由となっている場合。これは語れない、というか、語ってもどうしょもなかったりします(趣味がバッチリ合う人でもないと参考にすらならない)。対して、エロさが「客観的に語れる」という場合がある。かつてなんやかんや書いたことありましたが(http://d.hatena.ne.jp/tempel/20121215/1355571114)、たとえばそのゲームの物語だったり、設定だったり、ゲームシステムだったりが「エロ」を増幅させるような・補強するような作りになっている作品。そういう作品の、そのエロをパワーアップさせる「仕掛け」、それを比較的客観的に語ることは可能でしょう。このゲームはこれこれこういうシナリオであれが伏線になっててそれがこういう意味持っててだから素晴らしかった・感動したと比較的客観的に語る=分析することが出来るように、抜きゲーにおいても、これこれこういう仕掛け・構造があってだからこそこのゲームはエロかった、と語ることは可能なはずだ。だから皆もエロいと感じてくれるかどうかは、シナリオゲーにおいてだから皆も感動できるかどうかが決して保証されないのと同じように、また別の話にはなるのですが。


ということで、正直言うとまったくノーマークだった(だからこそ昨年12月発売で今頃クリアしている)のですが、プレイしながら「何これエロすぎィ! あったまおかしいんじゃねー!」とリアルに叫んでしまった『ヒメゴト・マスカレイドについて、そのエロさについて語ってみたいと思います。個人的には2012年ベスト抜きゲーですね。


公式(http://www.escude.co.jp/product/himegoto/index.html

さらっと概要をなぞると、本作は「女装主人公」作品です。幼い頃に事故にあって記憶を失くし、代々執事を輩出する家に引き取られた主人公は、執事としての能力は十分ながらも「女の子」がものすごく苦手でした。作中では女性恐怖症と言われています。その女性恐怖症を克服する荒療治として、女の子しかいない女学園に女装して通うことになったわけでした。
で、その学園で生徒会長的ポジションを努めている愛璃に秘密がバレてしまうのですが、彼女は秘密を隠してくれるし、むしろ女性恐怖症克服に協力してくれるようになります。
そこで出てくるのが「おさわりパート」と呼ばれるもので、

「見つめる」とか「手を繋ぐ」とかのコマンドを選んでいって、少しずつ女性に慣れていこうというものです。

その「おさわりパート」をメインにゲームは進行します。途中からもう一人のキャラも出てきて、そちらも「おさわりパート」で選べるようになります。


そもそも基本的なことを先に書いておくと、この「おさわりパート」と、もう一つ本作の特徴としてあるスゴロクみたいな「MAP構造」が、基本的なエロさを作り出しています。

「おさわりパート」というのは、キスしたり胸もんだりとやることを選んでいって、それを繰り返すごとに(またステータスを上げるごとに)どんどん過激にすることが出来るという、いわばある種の「調教ゲー」みたいな形態を持っているのですが、この「調教ゲー」みたいな形と「MAP構造」って実は相性良いんですよね。MAPをどんどん進んでいくということが、つまり彼女の心の奥にどんどん進んでいくということの隠喩でもあるわけなので。言うなれば「領土侵攻」なわけです。この作品の場合は、全てのマス(領土)を踏破することがゲーム期間的に不可能なので、全部を支配するというわけではなく、どんどん重要なところ、奥地に潜っていくという感じなのですが、それは彼女の重要なところ、心(そしてエロパートも合わせれば身体も)の奥地に潜っていくのと同じである。実際MAP自体も、仲が深まればそれ用の特別なMAPを進められるようになっていますし。つまりこの運用のされ方からすると、このMAPは果たして何を表しているのかというと、彼女たちの「心の中」という秘められたことを表徴しているわけです。それを調教ゲーじみたエロでもってどんどん侵攻していき、また侵攻すればするほど新たなエロが解放されていく。この辺の基本的なシステムもまたエロを上手いこと増幅させていました。


で、話を本題に戻しまして、この「おさわりパート」、主人公の女性恐怖症克服という名目の元はじまりますが、あっという間にセックスします。最初「見つめる」「手を繋ぐ」程度だったのが、もう次の日や次の次の日くらいには「キス」をしたり「胸をさわる」が出てくる。そしてなんかあっという間にHにまで至る。しかもそれ以降はおさわりパートするたびに毎回Hする。

これがね、おかしい。エロい。ちょっと作った人頭おかしいんじゃないかってくらいエロい。なぜなら、セックスする理由がマジで一つもないからです。女性恐怖症克服のために女の子と接する。そこまでは分かる。だがそのはずみで何故かセックスする。これが例えば、女の子の方がエロエロだったとか、実は主人公のことが好きだったとか、女性恐怖症克服のために触れ合ってたらあまりにも盛り上がってしまってつい……とかだったら、まだ話は分かります。しかし彼女たちは温室育ちのお嬢さまという設定通りに基本的にはエロエロではないし*1、次第に主人公に好意を抱いてきますが最初はそうでもないし、女性恐怖症克服のために触れ合ってその流れでというシーンもありますが、そういうの関係なくいきなりセックスに至る場面も多々あるわけです。
つまり、セックスする理由がマジでない。身持ちが硬いはずのお嬢さまがなんか流れでなんとなくセックスするし、だからって主人公のことが超大好きってわけでもないし、別に淫乱でもない。なのにセックスはきっちりする。マジで意味わかんねー! もう我われの眼からするとね、理由が放棄された謎の現象にしか見えないのです。つまり言い換えるなら、このゲームにおいてセックスは異次元で行われている。夢の中で行われている。それぐらい非現実的に切り離されているのです。だって因果関係がまったくない、セックスする理由や必然性がまったくないんだもん。それは物語上でも確かにそうなっていて、セックスしてるのに普段は全然普通の友達同士だし、それどころかセックス直後のテキストからして思いっきり日常風景そのものなのです。まるで先ほどのセックスが無かったかのような振る舞いを見せる!


これが奇妙なエロさを醸し出しています。
窃視、秘密、見てはいけないもの・本来ありえないものを見ている。
このゲームにおけるエロシーンには、そういうエロさがある。ゲームのタイトルに『ヒメゴト』と付いているように、この行為(女性恐怖症克服・おさわりパート)は彼女たちにとって他の人には秘密にして行われる秘め事であるのですが、同時に物語から完全に浮いているヒメゴトでもあるわけです。たとえば、普通にプレイしていたらクリアまでにセックスシーンを10回20回は見ることになると思いますが(シーンコンプしようと思ったらその数倍必要)、クリアするだけなら強制的に行われる最初の1回だけ見れば理論上はオッケーなのです。こういうところからも、物語からいかにセックスが浮いているかが分かると思います。てゆうかこのゲーム、本当に必須のセックスって強制イベントである最初の1回目だけで、それ以外のHはあってもなくてもいいんですよね。ここが一番あたまおかしい(褒め言葉)ところなんですが、普通のエロゲーって恋人同士になった後セックスすると思いますが、このゲームはしません。個別ルートに入った後にセックスがあるのが普通のエロゲーですが、このゲームは共通ルートにしかセックスシーンが存在しないのです。個別ルートでは、恋人同士になった後には、エロシーンが無い、セックスが存在しない

これが余計に本作における「セックス」を何か奇妙に浮遊しているモノに仕立て上げていて、それにより特別なエロさが生み出されているのです。
彼女たちの心理的な部分や身体的な部分にセックスする理由や因果関係がほとんどなくて、物語的にもセックスする理由や因果関係がほとんどない。てゆうか必然性という意味では、(最初の1回以外)セックスする必然性が彼女たちの中にも物語の中にも何処にもない(だからこそ、最初の1回さえすれば原理的にはクリア可能である*2)。

それがこの作品におけるセックスの奇妙さを生み出している。物語やキャラクターから分離して「ただそこにある」、言うならば<現実的>な重みを持った、何にも紐付けされていない、どのような理路も理由も原因もなく肯定される、どんな後ろ盾も因果関係も意味すらも必要としない「純粋なセックス」を作り出している。ああそうです、ここまでどうにか説明できないものかと迷いながら書いて来たのですが、敢えて言うならそれです。ここにあるのは全てから解放された「ただのセックス」なのですよ。それがヤバイ。それがエロい。どうしてもこう、文章だけだと多分あんまり伝わっていないと思うのですが、これが本当にヤバイのです。はっきりいって頭おかしいレベル。残念ながら体験版じゃよくわかんないかもしれないですので、是非プレイしてみて欲しい。中古なら結構安くなってますし。


エロゲーのエロさとは、ただセックスすることだけではない。たとえば物語と絡まってくっそエロいことになってる『夏めろ』とか、強制的にエロいことするはめになるという設定によりえらい背徳的というか淫靡なエロが展開されまくる『幻月のパンドオラ』『ももえろ濃霧注意報』などなど、物語や設定やシステムなどの「仕掛け」により、ハイパーエロくなってる作品が幾つもあります。この『ヒメゴト・マスカレイド』も、セックスするだけの理由がある個別ルート/恋人になった後でセックスしないくせに何故かセックスする理由が何処にもない共通ルート/恋人でも何でもないただの友達のときにセックスしまくれることにより、理由も因果関係も何もかもが登場人物の心の中にも身体のどこかにも物語にも存在しない、ただただ浮き上がった至純の「セックス」を現前させる、それがメチャクチャ淫靡で背徳的で官能的で……とにかくエロかった、というお話でした。

*1:まあ抜きゲーヒロインなので「全くエロくない」というわけではありませんが。

*2:実際にはMAPの関係上無理っぽい? 「ヒメゴトマスを絶対に踏まないプレイ」をちょっと試してみたのですが無理でした。もし出来たら教えて!