ヴァルヴレイヴ6話 サキさんについてちょっとメモ

今回ちょっと詰め込み感強くなかったすか? 整理して書き残しておかないと自分でも数週間後には忘れてしまいそうなので、メモを。


「貧乏、暴力、アルコール、犯罪。本当、毒みたいな親だった」「親から逃げるには、あの最低の世界から抜け出すためには、有名になるしかなかったの」
その後「ウソ」と言ってましたけど、これが丸っきりのウソではないというのは確かでしょう。終盤の戦闘シーンで挿入された回想が示しているように、少なくとも暴力を振るう親であったっぽいし(まあ親と確定しているわけではないので多分ですけど)、アイドルの世界に入っても他のアイドルたちには疎まれ嫌われ、大人達には嗤われ、最終的には解雇された。どこまで本当なのかは分かりませんが、おおよそは本当だったんじゃないかなと思います。それを前提で見ると色々腑に落ちるし、そしてサキさんは本当にヤバイ。


なにがヤバイって、人間そんなことしなくてもいいってことです。
最低な親で、アイドルになって有名になることで(ニアイコールお金を稼ぐことで?)、親の暴力から逃れられた、親の元から逃げられた。そういう過去があったのだろう。それは分かります。でもだからって、いまだに「有名にならなければ」なんて妄念に取り付かれる必要はない。

「別にハルトなんてどうでもいい。私はただ有名になりたいだけだから」
「流木野さんはスターじゃない。十分有名でしょ?」
「そうだよ、どうしてそんな風に」
「自分の存在を世界に刻み付けないと、消えてしまうから……」

人間は自分の存在を世界に刻み付けなくても別に消えはしません。有名にならなくても生きていけます。幸せにだってなれます。でもサキさんは違うんですよね。この子はもう、ある種の強迫観念に取り付かれている。「有名にならなくてはならない」「世界に自分を刻み付けなければならない」、そうしないと消えてしまう……「世界に殺されてしまう」。


実際それはただの強迫観念だよ、君はそんなことしなくても生きていけるし幸せにもなれるよとこの病んだステージを降りるチャンスもあったんですよね。たとえばあの「こわい……」ってビビッてしまったとこ。
最初にヴァルヴレイヴ=カーミラに乗った時を思い出そう。起動しながら「私の歌を世界中の人が聞くの。流木野サキ? ああ知ってるよ。『らんらんらららら〜ん』だろ、って」 彼女にとってヴァルヴレイヴは、戦うというのは有名になるための手段であり、有名になるための戦力であった。外に出たら音楽にあわせ踊るように飛び回りながらマント羽織ってポーズまで決めてたのが象徴的ですけど、彼女にとっては最初から「ステージ」だったんですよね。


これに輪をかけたのが「ニンゲンヤメマスカ?」で、彼女としてはハルトと同じようなヴァンパイア的能力と超回復力……彼女いわく「不死身」の存在になれると考えてた。人間やめるか聞かれて、「いいじゃない。人間なんて嫌いだし、その上スペシャルになれるなんてオールオッケー」と答えていたように。スペシャル=不死身の超人になれること。実際、ヴァルヴレイヴの手の上を歩いてハルトが危ないと注意した時も「平気! だって、不死身なんでしょ」と答えていたし、戦場で前に出すぎだと注意された時も「いいじゃない。私たち不死身の超人なのよ」と答えていた。私は不死身なんですよ? スペシャルなんですよ? こんなのなんてことないですよ? 有名にだってなりますよ? それゆえ自信過剰になっていたとも言えます。なにせ戦場出てからはじめて「武器は?」とか言ってようやく武器を探し始めまたくらいですからねこの人。それ先にチェックしとけよという感じですが、逆に言えば彼女にとって所詮戦いとは有名になるための手段でしかないわけだし、そして不死身の超人になったという事実はこんな余裕を見せ付けるだけの全能感を彼女に与えていたわけです。私は不死身なんだから大丈夫。なんだって出来る。だってスペシャルなのだから。だからもう、怖いものなどない。



しかし強い敵に当たって、リアルな戦場を思い知った彼女からそんな全能感は吹き飛びます。
「震えてる、こんな……」「こわい……」「こわい……私、不死身なのに……」
不死身でも怖いものは怖いのです。不死身なら何でも出来る?出来ない、怖いものは怖い。スペシャルな存在になったのだから楽勝?出来ない、不死身だから死なないとしても死ぬくらい痛い目と怖い目にあうリアルな戦場は怖すぎて立ち向かえない。不死身でスペシャルな自分は活躍して目立って有名になれる?無理だ、たとえ不死身でもただそれだけ、心が不死身になったわけではない。怖いものは怖い。
その恐怖をですね、「有名になりたい」の一心だけで乗り越えちゃうのですこの子は。ショーコの「流木野サキはスターでしょ!」といった言葉がきっかけとなってのものなんですけど、そっち側に歩を進めてしまう。「……スター……」と呟きながら覚悟を決めるかのように溜息を吐いてしまうのです。そして「足りない……」「全然観客が足りないわ」「私は世界一のスターになるんだから」「この戦争をワイアードにアップして。コックピットの映像も」と、本当に、本気で、本格的に、戦場においてスターとしての自分を生きさせることを決めてしまった。



そしてこの戦い。歌にあわせて踊るように飛び回って戦ってる。この歌はアニメのBGMであって物語世界の中では流れていないはずなのですが、サキの頭の中でだけは例外的に流れていそうです。もう戦場が完全にステージになっていて、それを見て世界中のみんなが応援してくれる。中には「ダンスみたーい」という反応している奴がいるあたり流石ですね。ヴヴヴは作中でセルフツッコミ入れたりするという話がありましたが、まさにそんな感じ。戦場にステージを投影してアイドルしているという狂った歪みをストレートに表現しています。



ではこのステージにおいて敵の攻撃は何なのかというと、彼女が受けてきた暴力、世界からの攻撃に重ね合わせられています。ミサイル攻撃を受けたのと、自分が幼い頃に叩かれたのをダブらせて「まだ……!」とか言うんです。攻撃受けてくっ…と俯きながらも「有名に…なるしか……!」と言って前を向いて立ち向かうんです。敵のミサイル攻撃に自身が受けてきて暴力・攻撃を投影して、それを避けて、喰らっても「有名になる」という一念で立ち向かう。さらに世界中の反応を見て「世界が見てる」ことを知った彼女にとって、戦場は完全にステージになる。「世界」が見ているのです。敵の攻撃=サキさんが受けた暴力の投影を乗り越える自分を、自分を傷つけてきた世界そのものに刻み付ける。ちょっと屈折した言い方になりましたが、サキさん自身が屈折しまくってるので仕方ない。「私は世界に……殺されない!」というのは、そうだからこその言葉ですね。有名にならなければ最低な世界から逃げ出せない。自分の存在を世界に刻み付けないと、その最低ではない世界から消されてしまう。


だからこれは、色々な屈折を投影して昇華できた(できている)ということでもある。あるんですけど……個人的には不安ばっか感じられて超怖い。上にも書いたように、別に人間は有名にならなくては生きていけないわけではないのです。世界に自分を刻み付けなくても本当は大丈夫なんです。だけどこの子はそう考えてない。この子にそれは無理。有名になる、世界に自分を刻み付ける、そういう生き方しか出来ない、そういう強迫観念に囚われてる。そのために戦ってる。敵の攻撃喰らっても「有名に……なるしか……!」と言いながら立ち向かうわけですからね、ここで止まっては有名にはなれない、だから有名になるため頑張る、諦めない。どんな困難や苦難に対しても、その一念で戦っていく。世界に自分を刻み付けるために、どんな苦境も乗り越えていく。―――僕がこういうキャラ大好きだってのもあるんですけど、美樹さやかさん思い出しましたね。あの子もまた「正義の魔法少女をやることを決めた」とか言って、別にやらなくてもいいものを一生懸命やってそれで死んだわけです(http://d.hatena.ne.jp/tempel/20120215/1329235553)。やりたいことでもないし、やらなくてはならないことでもないし、自然とそれをする流れになったわけでもない。でも、自分の心を守るために、本当はやらなくてもいいそれをわざわざやってしまったわけです。そして、それに耐え切れなくなって、死んだ。サキさんもまた、「有名になる」「世界に自分を刻み付ける」とか、やらなくてもいいのです。人間、そんなことしなくても生きていける。その強迫観念的な考えをどうにか手懐けて、普通の一般人として生きていく道だってあっただろう。でも、そうはならなかった。そして、「有名になるため」危険な戦場に突っ込んで、ビビッてガクガク震えても、戦場で自分はスターになる、有名になると考えればまた立ち向かえるし、敵の攻撃にも「有名になるため」の一念で怯まない。こんなんだから、こう思ってしまうわけです。この先のどんな困難にも「有名になるため」で立ち向かって、そして「有名になるため」に歯を食いしばって我慢して、頑張っていくんじゃないだろうか。それで乗り越えられる相手ばかりならいいけど、そうやって頑張っても殺されるくらい強大な敵だったらどうなるのだろう。あるいは、「有名になるため」と歯を食いしばってるのだけど、その困難が「有名になるため」という思いだけでは耐えられないほど大きいものだったらどうなるのだろう。―――とか、ちょっともういらん心配というか、妄想入りすぎてる感じありますが、このまま行ったらサキさんが自分自身に殺されちゃうんじゃないかなーと心配で。そうなる前に上手いこと救われるのを願っています。