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『スキとスキとでサンカク恋愛』 感想

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ネタバレ殆どなしで。

重い話や真面目な話をただそのまましているだけでは重く・真面目な話になるだけで場合によっては聞くのも辛かったりしますが、合間にユーモアなどを挟むと途端に聞くのが楽になります。ユーモアが息継ぎ代わりになっているわけですね。さらにその重い話や真面目な話をギャグっぽくしたり、オチをネタっぽくするとある種のシリアスさからの回避にもなります。たとえば財布落としたなんて話を「大変でしたよ……。ショックですよ……」と話すのと、「いやー大変だったわ!ハハハッ!めっちゃショックだわwww!!」と話すのでは全然違うわけです。起きた出来事自体は同じですが、その出来事を当の話し手がどう受け止めたのが、そして聞く私たちがどう受け止めるか、そこに大きな違いが生じる。その出来事を向こうがマジと受け止めているのか、ネタのように受け止めているのか、こっちがマジと受け止めるべきか、ネタのように受け止めるべきか。

Asa Projectの中で僕が一番好きなのは前作『プラマイウォーズ』なのですが、この作品は上記のようなことがもう最っっっ高に素晴らしくてですね、基本的にほとんどありとあらゆるシーンにギャグやネタっぽさが入っているわけでして、つまりそれはシリアスをシリアスにしすぎない、真面目を真面目にしすぎないという効果をもたらしていたわけです。女の子たち5人と同じ家に暮らしていて5人全員主人公のことが大なり小なり好きとかいうハーレムだけど一歩間違うと超修羅場空間みたいな状況なのですが、全てを笑いやギャグにする、全部をマジとネタの境界の曖昧なところに置いているからこそ、そんな空間でも殺伐さはなくただただみんなでバカなこと言って笑ってイチャイチャできる空間が作り上げられていたわけです。

で、今回の『スキとスキとでサンカク恋愛』もその路線でして、むしろそれを拡張しているくらい、こいつら絶対ネタを入れないと死んじゃう呪いにでもかかってるのかというくらいありとあらゆるシーンに絶対ギャグや笑いを入れてきていて、それがまたすげー楽しいのです。高校(的なるもの)のオタクサークルが舞台なのですが、だからこそオタクネタやネットスラングみたいなのが多用されても何ら違和感ないし、そんな中で可愛い女の子や僅かな男部員と格ゲーで遊んだりあのアニメはどうだこうだって会話したり何故か今さらトゥハートをみんなでやったりガルパンはいいぞってなったりする―――つまりそういうオタクライフをみんなでやりつつ、そこでみんなネタやギャグを言ってきて、だからみんな楽しそうで笑って……そんな理想的なオタクライフがここにある!!

もちろんタイトルにあるように『サンカク恋愛』、つまり三角関係的なものもある。ただこれあくまでも「サンカク関係」ではなく「サンカク恋愛」なんすよね。しかも「スキとスキと」であって、二者の「スキ」しかぶつかっていない。だから濃厚な三角関係的なものは描かれないし、そもそも上に書いたように全てをギャグやネタで濾過してシリアスを回避しようとしているから、サンカクも描写そのものは濃密にはなりえない。シリアスという要素に対してはそういうスタンスのゲームです。ギャグや笑いをまぶす。真面目なシーンでもすぐにバカなことを言う。真剣な話も最終的にオチはネタっぽく締める。だから本当にマジにはなり得ない、シリアスから逃走している、決定的な言葉や場面や感情の直前までは進んでも、必ずそこにギャグやオチをつけてネタっぽくするから本当に「決定的」な場面も言葉も感情も訪れない。

だからこれは永遠に続く甘いなれ合いで、そのぬるま湯加減が心地良いという作品でもあります。主人公自身が恋愛的空気が苦手、こののヌルく心地良いオタクサークルっぷりが良いみたいなことを何度も口にしていますが、同時にそういう空気を主人公が・他のキャラたちが再帰的に強化しているわけでもある。たとえば序盤の共通ルートの話ですが、

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――俺は木須先輩の事がよくわからなかった。
突然俺の事好きだと言って付きまとったりもそうだが……特に読みづらいのはその感情の動きだ。
俺にそっけなくかわされても、いつも通りだったし。でも……
真帆「……宗介はそういうの一番苦手なんだ。昔からな」
志衣菜「――っ」
この時の感情だけは、ハッキリとわかってしまった。
真帆「大体、あまりやりすぎて宗介がまた部室に来づらくなったら木須先輩だって……」
志衣菜「わかりました」
随分素直に頷いていた。真帆の事をライバルとか言う割には。
志衣菜「これからも皆仲良く出来る様に、程々に……宗介くんを好きになりたいと思います」
その視線は恋敵というよりは、むしろ……。
カーラ「おっぱい」
七瑠「……いや、」
七瑠「なんでいきなりそれ?今真面目な話してたでしょ?」
茜「……ちくび」
部長「責めてやるな……彼女達はまだ、恋バナの桃色空気に耐えられなかったようだ」

こういう風に率先して話を場をネタ化している。しようとしている。

つまり、そこに笑い(ギャグ)があり恋愛の萌芽の楽しさがあり可愛さがあり萌えもある、シリアスな・真面目な側面も勿論あるっていうか実はありありなのですが、それらはギャグと笑いとほぼ毎回最終的にはネタで話を締めるという形をとっていることで、シリアスさと真面目さの上澄みだけを掻っ攫って上手いこと回している。少なくとも共通ルートに関しては……というか個別に入ってもだいぶ進むまではそういう形態のゲームであって、シリアスが隠蔽された甘いじゃれ合い、たわむれ故の輝きが本当に楽しく、そして同時に上澄みだけのシリアスが上澄みも積もれば山となるようにどんどんと静かに溜まっていく、そのいつか来る決定的な時を見据えているところにドキドキもさせられるのです。決して能天気なギャグだけではなく、サンカク恋愛の部分も着々と進行しているのですが、結局ギャグっぽく、あるいはネタっぽく終わるから、どうしても深刻さはそこにはない。それが僕はとても良いと思うのです。シリアスからの片足だけの回避、ガチとネタの境界線上の遊戯、つまりは永遠に続く戯れのようなもの。

ただ、このギャグやネタでマジを回避しようとする態度とオタはあまりにも相性良すぎる。てゆうかオタって基本的にそういう傾向強いじゃないすか。いやいやマジじゃないっすよ、ネタっすよ(なお本心はマジであった)みたいなメタ方向への回避とか、ギャグやネタ化でスカしてマジに行かない逃げ道作っとくのもう基本戦術みたいな面ちょっとあるじゃないすか。シリアスから逃れ、本当に「決定的」には踏み込まないというのもまさにオタ的ではないですか。いやオタをディスってるのではなく、物事をメタ化して見たりメタ化した態度を取るのが基本的に得意じゃないすかということでして、そしてそれはオタであるこの作品の登場人物たちにも同じこと言えて、つまりネタとギャグでシリアス回避というこのゲームのスタンスと相性良すぎて本当に永久に回避できてしまいそうだし、同時にオタである私たちプレイヤーもそのこと(ネタ化やギャグ化で回避している)が痛いほど分かってしまってなんというか、めちゃくちゃ居心地良いゲームなんですけど同時に嫌な鏡像的な部分もあって居心地の悪さも共存している。

つまりそういうことなんです。ネタとギャグで決定的から回避し続けることにより現実から目を背けたかのような甘いたわむれ、居心地の良いじゃれ合いが展開されるのですけど、同時にそれがオタ特有のアレだと分かると理解できすぎてしまい途端に座りの悪さも出てくる。たとえば志衣菜ルートとか顕著なんですけど、恋愛成分強まってくるとネタ挟んだりギャグ言ったりしてくるのがあーもうこれ完全に照れ隠しじゃん!しかも挟むネタがいちいちオタ的で本当にアレです、共感できるを通り越して身につまされるとしか言いようがないっすよ!! ってなる。エロシーンになるとそういうギャグやネタでの照れ隠し的なるものヤバイくらい増えますしね。てゆうかギャグ多すぎでこれ抜けるやつおるんか…って逆に心配になるレベル。永遠に続かせられる楽園ではあるのですけど、同時にその永遠を生み出しているシステムを私たちもよく分かってしまうというかそれ俺らもやるやつやんけ!!ってなる。そんな愛しさと心地良さ、そしてあまりにもな身近すぎて逆に少し心地悪くなる、変な罪悪感を抱くような感じを兼ね備えているゲームなわけです。


さてしかしですね、ギャグやネタで回避し続けていてもシリアスなところ・真面目なところ・つまり「サンカク恋愛」なところは存在していて、モラトリアムはいつか終わるように、いつかはそこも清算しなくてはならないわけで、それが個別ルートの告白シーンであり、そしてそこではじめて「決定的な」ところが訪れるわけです。ここだけはネタで落とさない。当たり前ですけど。これについてはネタバレになるので多くは書きませんが、ただ勿論ゲームカラー的に描写も重過ぎないし長すぎないけど、しかし決定的なところはいつかは訪れる、いつかは清算しなければならない、そこはネタに行かずちゃんと描いて永続できるじゃれ合いをきちんと終わらせているところはすごく良いなと思います。まあ茜先輩とカーラシナリオは存在そのものがネタ的でもあるけどね!


キャラクターはみんな素晴らしく、個別ルートも付き合い出したら(七瑠ルート以外)もう中身ないと言っても過言ではないくらい内容ないのがちょっとどうかと思いますがそれまでは全部良いし、特に七瑠は「実の妹のように兄と親しくしてた義妹だったけど実の妹がやってくることによって実際は自分は実の妹のようではなかったということが明らかになったり妹らしさや妹として自分はどうなのかということにも悩みだしてしまう」というあたり、妹ゲーにおける義妹としてかなり珍しくかつクリティカルなところを突いてもいるのではないでしょうか。妹が妹であることに悩むという、つまり妹の実存主義的思想に鋭く切り込んだ作品でもある。いやそんな鋭くないけど。基本的には「迷子」の七瑠を見つけたときからはじまった兄と妹だからこそ、何度も現実の身体的にも心の部分でも迷子のようになる七瑠をやっぱり見つけて彼女を留めるのはお兄ちゃんの役目であるし、かと思いきやすずが先に見つけてお姉ちゃん呼ばわりされてたのもある意味このゲームらしいお決まりからの回避の仕方であって面白いです。そう、兄も妹も、それは恋人以前に「家族」であって、だからすずの・お姉ちゃんの出番もある。

それとやはり志衣菜先輩であります。


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もうこれこの声優にこのセリフをこういう演技で言わせてる時点で志衣菜さん完全勝利だろ……!!

しっかしね、クソ可愛くて向こうからガンガン好き好きアプローチしてきてしかもエロゲオタでエロゲネタとかエロゲ系ギャグをバシバシぶち込んできてその上ロリ巨乳とかもうこの人完全にエロゲオタ男子の脳内理想女の子を具現化したような存在すぎてどうかしてるよ!!しかも基本いつも赤面しててしょっちゅう「主人公くん好きー」とか言ってくるんだぜ!!しかも喋りも早口マシンガン気味なんだけど、これがオタ特有の照れ隠し&勢いづけ&ある意味空気読めてない系の早口マシンガンであってですね、つうか自分でもそういうのだったって後々カミングアウトしてましたけど、そういういじらしさもクッソ可愛いしさ、親しくなれば勿論マシンガンじゃなくなるしさ、そもそも基本非コミュの今まで友達いない系だったからこそそういう風な人との付き合い方・自分への勇気の奮い立たせ方を選んでしまったというのがもうすっげー可愛いじゃないすか!!だいたい友情感出てくるところだと今でも非コミュっぽさ発揮しますしね。教室では休み時間はいつも机に突っ伏して過ごして放課後になれば速攻で帰宅しますし。友達いない子だあ……。その原因はエロゲオタだからじゃなくて空気が読めないところでも恐らくあって、たとえばエロゲの話を一人でガンガンしたりみんなでゲームやるところでトゥーハート持ってきてみんな呆れてるのに(それに気づかずに?)一人ノリノリだったりしてたじゃないですか、ああいう空気の読めないところがあってですね、でもね、 空気が読めない。でも悪い子じゃないから、嫌いになれない。 と主人公が言ってるように、本当に空気が読めないけど本当に良い子なんすわ。真帆シナリオをやると特によく分かります(というかサンカクの逆側のキャラはみんな良い子・ステキな子として描かれてもいるのでなんというか全キャラ最高!!ってなる)。あとあと、たとえば個別シナリオ序盤の、宗介の家に勝手に押しかけて勝手に一緒に登校したときに、真帆と会ったら 「げっ」 と言われたにも関わらずハイタッチして 「げっ、とか言われてる相手によくハイタッチ求められるなぁ……」 とすずに言われてましたけど、ああいう態度、彼女の性格考えると「げっ」と言われて何にも思ってないわけがないでしょう、意外とショック受けてる可能性すらあります、だからこそ、志衣菜さんは「げっ」と言われた相手だからこそハイタッチを求めていったのであって、それはつまりその「げっ」をマジにしない・ネタにする・ガチに受け止めないための行為でもあるわけです。そういう対人関係におけるある種のやせ我慢も持ち合わせてる。そんな可愛さ。てゆうか彼女は本当に俺らの理想像でありながら俺ら自身でもありますよなー。もしも俺らがエロゲに出てくる女の子だったらこんな感じでありこんな感じになりたくありこんな感じが理想であり最頂到達点ではないだろうか。そういうわけで、志衣菜先輩は俺だ……!!ってなるくらい愛おしいわけです。ということでおわり。